Ultimate Ears Super.fi 5 Pro
SHURE E4cN レビューで予告したが、新たなイヤフォンが届いたので、予告通りレビューを書いておこう。
Ultimate Ears Super.fi 5 Pro
正直、Ultimate Ears,Incというメーカは全く知らなかった。それもそのはず、コンサートやスタジオで使用するインイヤモニタ(In Ear Monitor)を専門とするメーカであり、コンシュマ向けのトランスデューサメーカとしては少し前までは無名だったらしいのである。特にカスタムイヤーモールド(各人の耳道の形に合わせたオーダメイドのモールド)を使用したイヤモニタではミュージシャン御用達だそうで、シェア8割を誇るらしい。
今回購入したSuper.fi 5 Pro(以降 5Pro)も、元々はカスタムモールドを使用したインイヤモニタのミドルレンジ製品であるUE-5 Proをカスタムモールドではなく、一般的なカナル型のイヤフォンハウジングに整形した製品である。(カスタムモールドは顧客に合わせて耳道の型を採取してから製品を作り、納入することになるので大変高価だ。クチュールのスーツのようなものである)他には、廉価版のSuper.fi 3 Studio、低音ドライバをダイナミックタイプにして増強したSuper.fi 5 EB等がある。日本では総代理店がM-Audioになっているが、AppleStoreで逸早く売られるようになったので耳の早い人はご存じだろう。
5Proの一番の特徴は、2基のドライバを高音域用と低音域用それぞれに採用していることである(同じタイプとしてはSHURE E5c等がある)。
ポータブルで使うことが前提のイヤフォン、その中でもカナル型はハウジングを軽く、小さく設計する必要がある訳だが(その為にドライバにはバランスドアマチュア型が好んで使用される)、そのような制約の中で2wayのドライバ構成にしている事は意味はなんだろう、と思うことだろう。
SHURE E4cN レビューでも書いたが、今まで使ってきたイヤフォンで採用されているバランスドアマチュア型ドライバは、通常のダイナミック型に対して精緻な音を出せるのだが、どうしても低音の量感が劣る、という弱点があると常々感じてきた。恐らく(というか明白だが)2wayによるドライバの音域分割は、2Way等のダイナミック型スピーカ等と同じく、有効な再生帯域を広げると共にそれぞれの帯域の能率を上げるのが目的だろう。
- 装着感
5Proも、いわゆる「カナル型」のイヤフォンであり、耳道にカナル(耳栓)を挿入するように装着するタイプである。このタイプは様々なイヤチップが添付されてくる製品が多いが、5Proも幾つかのイヤチップが添付されてくる。
Super.fi 5 Pro Accessories
種類は、シリコン製シングルフランジイヤチップ(S,M,L)、ダブルフランジタイプイヤチップ、使い捨て型のスポンジフォームであり、それぞれに特徴があり、個人が一番フィットするタイプを選択すべきだ。一通り試してみたが、やはりスポンジフォームが帯域、装着感、遮音性で最も優れているようだが、どれも装着しやすい。
写真では解り難いが、5Proのケーブルは非常に細く取り回しがしやすい。ケーブルが細いため、タッチノイズも皆無であり、この点ポータブルでの使用を強く意識しているという意味で非常に好感が持てる。また、耳に近い部分にはアクリルモールドが被せてあり、中にカーブさせたワイヤが仕込まれている。5ProもE4c等と同様に耳に装着した後、ケーブルは耳の後ろを通すのが標準的な装着方法だが、このワイヤを耳にかけることで装着しやすくなっているのだ。あと、5Proのケーブルは脱着が可能であり、万が一断線などが発生した場合でもケーブルだけ交換することが可能である。(このケーブルはメーカからメンテナンス品として提供されており、別買いできる) イヤフォンが壊れる事故の原因で最も多いのが、不慮の断線であるため、ケーブルが交換可能というのは素晴らしいと思う。
- 遮音と音漏れ
5Proはカナル型のイヤフォンだが、Etymotic ERシリーズやSHURE Eシリーズのように、耳道の奥深くにカナルを装着するタイプとは違い、耳道の入り口を塞ぐような装着方法を採っている。これは遮音や音漏れに関しては不利な条件なのだが、5Proは2Wayのドライバを開口部付近に縦に配置しており、そこから直に音を出しているためステムの径がEtymoticやSHUREに比べて倍以上太いのだ。その為、カナル型であっても耳道の奥には装着することができない。しかし、この装着方法を行うことを前提に作られてるので当然音質が劣るわけではないし、装着が簡単だというメリットもある。遮音や音漏れに関しても、EtymoticやSHUREには劣るが、国産のカナル型イヤフォンに比べれば遮音性は高いし、音漏れも通常の音量ではまず無いので電車の中でも安心して使えることだけは間違いない。
- 音質
2wayということで2基のドライバと周波数を分割するディバイダネットワークがあるので、エージングには時間がかかるタイプだ。聴き始めは高域と低域がばらばらだったので、取り敢えず20時間程エージングを行った状態で評価している。
一聴して判るのは他のカナル型イヤフォンとは、鳴り方が違うということだ。まるでダイナミック型ヘッドフォンや、スピーカに近い鳴り方なのである。特に中低音、低音の量感はバランスドアマチュアとは思えない程に豊かであり、ビラミッド型のウェルバランス。とにかくスケール感が他のカナルより1ランク上に感じる。あと、音場が非常に広い。SHURE E4cも音場が広がると書いたが5Proはそれを上まわる音場である。2wayであること、能率が高いこと、カナル型だがそれほど耳道の奥には装着しないことが効いていると思われる。(感覚的だが、音場は鼓膜から音源が離れるほ広くなり、近づくと狭くなると感じる。我々と音楽を聴く時には耳に直接届く音と遅れて届く反響音を聴いていると言うが、イヤフォンを音源と考えた場合、同様なのかもしれない)
能率が高い(21Ω/119dB/mW)というはやはり良いものだ。一般的にトランスデューサの能率が高いとキビキビとした元気の良い音がでる。能率が高いということは感度が良いということであり、これはソースや機器のノイズを拾いやすい、という弱点にもなる。特に私が使用しているプレイヤー KENWOOD HD30GA9のように、元々残留ノイズが目立つ機器だと盛大にノイズが聞えたりするので、人によってはこのノイズだけで嫌悪するのだが、私は能率の良いスピーカ、イヤフォンが好きだ。
2Wayの効果は主に低音に効いているのだが、高音域が悪いかというと全然そんなことはない。Etymptic ER-4程分析的ではないが充分でありSHURE E4cと大して変わらない高音が出るのだが、このタイプのイヤフォンにしては不相応な低音の質と量に高音が負けてしまうためか、若干おとなしめに聞えるのだろう。かといってこれ以上高音がでしゃばると、それも嫌である。
試しにJazzを聴いてみる。他のイヤフォンでもベースラインやバスドラムはきちんと聞こえたのだが、5Proではそれ以上、いわゆる胴鳴りも聞えるようになった。ピアノの倍音成分が綺麗に聞えるためには低い音が大切なことも判る。テナーサックス等はE4c等で聴いた時とは別な楽器に聞える。やはり中音、中低音が音楽のファンダメンタルであることを再認識させてくれると思う。次は女性ボーカル。2Wayのシステムはボーカル、特に女性ボーカルが引っ込んで聞えることが泣き所だったりするのだが、まだエージングが少ないせいかボーカルが2ヶ所から聞えるような感じがするソースがあった。オケは難しい。機器によってはノイズが目立つため、どうしても気になるのだが、全奏では素晴らしい。コントラバスやグランカッサもよく聞こえる。やはり低音重要。
- 総論
2基のドライバを使用して再生音域も広く、能率が高いので機器も選ばない(能率が高過ぎる場合のために音量を落とすアッテネータも添付されている)。特筆すべきは、このタイプとしては異例の低音、中低音の質と量と音場の広さだ。装着方法も簡単で万人に向くが、ちょっとしたバックグラウンドノイズすら気になるような人は使わない方が良いと思う。
音楽ジャンル別に5段階評価すると
クラシック: 3(4.5)
ジャズ/フュージョン: 5
ポップス/JPop: 4
ロック/ハードロック: 5
テクノ/エレクトロ: 5
こんな感じだろうか。クラシックの得点が低いのは、ノイズが目立つジャンルだからだ。C701やE4cでは団子になりがちな、オケのトゥッティでは最高だということは付け加えておく。
過去に試したイヤフォンはどれも素晴らしく、最初は楽しく音楽を聴けたのだが、その後必ずといって良いほど低、中低音の量感不足が気になり始めていらいらしていたものだが、それが今回の5Proで初めて払拭された。これで他の製品に目移りすることは、暫くないだろう。..と思う。